蓄膿症(慢性副鼻腔炎)とは

蓄膿症(慢性副鼻腔炎)とは、顔や頭の骨の中に形成された副鼻腔と呼ばれる空洞に生じる炎症です。副鼻腔は、副鼻腔換気排泄路と呼ばれる狭い交通路を介して鼻腔と連結しており、正常な副鼻腔は空気で充たされています。

しかし換気排泄路がうまく機能せず副鼻腔に空気が入りにくくなると、副鼻腔内に炎症をきたします。この状態が慢性化したものを蓄膿症と呼びます。

内視鏡副鼻腔手術の長所と問題点

内視鏡副鼻腔手術は鼻の内側から行うため、それ以前の手術に用いられていた口腔粘膜あるいは前額部皮膚の切開が不要です。また副鼻腔粘膜の大部分が保存されることから、低侵襲で後遺症も少なく、短期間に世界中に普及しました。

しかしながら、眼や脳の副損傷という新たな合併症が急増し、最近の米国、そしてわが国の報告でも、耳鼻咽喉科における医療事故の中で副鼻腔手術の合併症がトップに上がっているほどです。

副鼻腔手術の合併症の大部分が、両目の間にある蜂の巣状の小さな空洞(篩骨洞)で起こっています。一般に普及している内視鏡手術は、篩骨洞を分けている隔壁を前方から順に穿破しつつ、篩骨洞内の蜂巣を開放してゆく方法を基本としています。

この術式は、視野の前に現れた壁を穿破してゆく方法であるため、「篩骨洞内部を分けている隔壁」と「目や脳を分けている隔壁」かの判断を誤ると、目や脳の組織に操作を加えてしまうという危険性をはらんでいます。

従来の内視鏡手術
わたしたちは、現在基本とされている「篩骨洞を分けている隔壁を穿破して篩骨洞内の蜂巣を開放する」というアプローチが、内視鏡手術において合併症のリスクを高めている最大の理由と考えています。

サージセンター浜松が開発した新しい手術法

サージセンター浜松における内視鏡を用いた副鼻腔手術への取組みは、欧米において内視鏡手術が確立されてから間もない約20年前から始められました。

以来、合併症の危険性をなくすための独自の工夫を重ね、現在世界中で普及している内視鏡副鼻腔手術とは異なるアプローチに基づく術式へと進化させてきました。

従来の内視鏡手術
1997年に黄川田の開発した術式は、原則として篩骨洞内部の空洞の一つ一つに対し、その換気排泄路を経由して開放する方法であり、視野の前に現れた壁を穿破する操作を加えないことが大きな特徴です。

病変の進行した例では、一つ一つの換気排泄路を確認できないことがありますが、このような場合でも、視野に現れた隔壁を穿破する操作を決して加えることがありません。

サージセンター浜松の蓄膿症・慢性副鼻腔炎の手術

複雑な解剖の理解と精緻な手術手技が要求される手術ですが、サージセンター浜松で開発した内視鏡用吸引洗浄装置を用いているため(「サージセンター浜松の手術の特徴」の項参照)、血液に満たされた高度な病変の中でも、対象を大きく拡大した画像の下に、術野を高圧洗浄水で洗い流しながら継続的な手術が可能です。

このため、誤った対象に操作を加えたり、操作部位を見失ったりする危険性が少なく、安全性の高い手術を可能としています。また、内視鏡先端が汚れるたびに清拭のために術野から頻繁に内視鏡を取り出す手間もなく、術中に操作部位を確認するための装置(ナビゲーションシステム)を必要としないことなどから、手術時間を大幅に短縮することができます。

当院では、重症例の難しい手術でも、一側20分程度で完了させるといった「短時間手術」を可能にしています。また年間800件といった傑出した数の副鼻腔手術を実施しているにもかかわらず、当院の手術チーム全員が、合併症を"皆無"としており、安全性に優れた方法であることを実証しています。

蓄膿症・慢性副鼻腔炎の手術の限界と目的

10年ほど前までの副鼻腔疾患は、副鼻腔換気排泄路を拡大する手術により完治するものが大多数でしたが、近年、手術を行っても完治しない蓄膿症が急増しています。

難治性の症例は、たとえ手術を行っても副鼻腔粘膜が正常化することはありません。難治性かどうかは手術を行ってみないとわかりませんが、例え難治性の蓄膿症であっても、構造的欠陥部位と呼ばれる副鼻腔換気排泄路を拡大し、副鼻腔が正常化しやすい環境を整えることは大切と考えています。

これによって、症状が再発した場合でも、薬剤などを短期間使用することで比較的容易に安定状態に戻すことが可能となるからです。